多数決は破綻している その1

こんにちは。今回はゲーム理論について。

ゲーム理論は、大数学者フォンノイマンによって、趣味のポーカーでブラフの合理性を示すために作られました。(実際にブラフは合理的な戦略です)

 

今回はゲーム理論の中の、多数決について紹介します。

*ここでは、多数決(投票)を広い意味で捉えて「それぞれの意見を一つにまとめる」ようなものとして考えます。

 

はじめてのゲーム理論 (ブルーバックス)

はじめてのゲーム理論 (ブルーバックス)

  • 作者:川越 敏司
  • 発売日: 2012/08/21
  • メディア: 新書
 

 

コンドルセパラドックス

A,B,Cに以下のような好み選考)があったとしましょう。

A:X→Y→Z

B:Y→Z→X

C:Z→X→Y

これら3人の選考から、3人全体の選考社会的選考)を求めてみます。

 

・選択肢XとYに注目

 3人のうち2人がXの方を優先しているので、全体としてX→Yとできます。

・選択肢YとZに注目

 3人のうち2人がYの方を優先しているので、全体としてY→Zとできます。

・選択肢XとZに注目

 3人のうち2人がZの方を優先しているので、全体としてZ→Xとできます。

 

以上より社会的選考として、X→Y, Y→Z, Y→Z が求められました。

しかし、これら3つの結果は「堂々巡り」を起こしていることがわかります。

したがってXYZの3つの順位を決定することは不可能です。

これをコンドルセパラドックスと呼びます。

 

「問題設定が意図的だ」 と思うかもしれませんが、実はこの問題はとても重大な問題を抱えています。

*ここでの投票は、点数をつけて比べる形式のものではなく、順位を決める形式のものです。

 

アローの不可能性定理

投票が満たすべき最低条件

コンドルセパラドックスを回避し、しっかり社会的選考を決められるような投票の条件を作ります。

1. 社会的選考の一貫性

「投票の結果、得られた社会的選考の順序は、どの選択肢も比較可能推移的

 

どの選択肢も比較可能なことを完備と言います。

推移的とは以下のようなことを指します。

選考が X→YでありY→Zでもあるときは X→Y→Z となる。

つまり3者の順序関係が繋がるということです。

2. 全員一致の原則

これは多数決として当たり前の原則です。

「全員がX→Yとした時は、社会的選考はX→Yとなる」

全員の選考が一致していたら、それは社会全体の選考と見なすというだけのことです。

3. 中立性

「選択肢の名前が変わっても、最終的な結果は変わらない」

 

これは以下のようなことを可能にします。

全員の選考がX→Yのとき、同時にZ→Wが成り立つならば

社会的選考は XとZ、YとW のようにグループ化して考えても良い。

4. 多様な選考

「投票者の選考には十分な多様性がある」

 

この条件は、コンドルセパラドックスを防止します。投票者みんなが似たような選考を持ってしまうと、前に述べたような「堂々巡り」が発生してしまうからです。

5. 非独裁制

「独裁者が存在してはならない」

 

これは当たり前の仮定です。誰かの選考が、そのまま社会的選考になることはあってはなりません。

条件を満たす投票方式

以上5つが投票の最低条件です。これらの条件を満たす投票方式は存在するのでしょうか? 「アローの不可能性定理」は、この条件を満たす投票方式について次のように主張しています。

 

如何なる投票方式も、条件1〜5を満たすことができない。なぜなら、条件1〜4を満たすように投票方式をデザインすると、独裁制になってしまうからである。」

 

具体例で考える

AとBは以下のような選考を持っているとします。

A:X→Y→Z→W

B:W→Y→Z→X

このもとで、条件に沿って社会的選考を決めます。

 

・選択肢XとYに注目

 AとBで互いに異なる選考を持っています。ここではAの意見を採用し、X→Yとします。

・選択肢YとZに注目

 AとBともにY→Zなので、条件2よりY→Zとします。

・選択肢ZとWに注目

 AとBで互いに異なる選考を持っていて、決められないように見えます。しかし、XとY, ZとWのペアを見ると、お互いに対応していることがわかります。いま、X→Yという仮定をしたので、条件3よりZ→Wとなります。

・選択肢YとWに注目

 上の結果から、Y→ZとZ→Wなので、条件1の推移性からY→Wとなります。

 

以上をまとめて、つなげるとX→Y→Z→Wとなりました。

これは、Aの選考と一致し、独裁制になってしまいます

(最初にY→Xを仮定すると、Bが独裁者になります)

以上の議論はもっと一般的な場合でも成立します。 

 

果たしてこの不可能性から逃れる方法はあるのか?

次回はその解決策と、それに付随して起こる新たな問題 について紹介します。