多数決は破綻している その1
こんにちは。今回はゲーム理論について。
ゲーム理論は、大数学者フォンノイマンによって、趣味のポーカーでブラフの合理性を示すために作られました。(実際にブラフは合理的な戦略です)
今回はゲーム理論の中の、多数決について紹介します。
*ここでは、多数決(投票)を広い意味で捉えて「それぞれの意見を一つにまとめる」ようなものとして考えます。
コンドルセのパラドックス
A,B,Cに以下のような好み(選考)があったとしましょう。
A:X→Y→Z
B:Y→Z→X
C:Z→X→Y
これら3人の選考から、3人全体の選考(社会的選考)を求めてみます。
・選択肢XとYに注目
3人のうち2人がXの方を優先しているので、全体としてX→Yとできます。
・選択肢YとZに注目
3人のうち2人がYの方を優先しているので、全体としてY→Zとできます。
・選択肢XとZに注目
3人のうち2人がZの方を優先しているので、全体としてZ→Xとできます。
以上より社会的選考として、X→Y, Y→Z, Y→Z が求められました。
しかし、これら3つの結果は「堂々巡り」を起こしていることがわかります。
したがってXYZの3つの順位を決定することは不可能です。
「問題設定が意図的だ」 と思うかもしれませんが、実はこの問題はとても重大な問題を抱えています。
*ここでの投票は、点数をつけて比べる形式のものではなく、順位を決める形式のものです。
アローの不可能性定理
投票が満たすべき最低条件
コンドルセのパラドックスを回避し、しっかり社会的選考を決められるような投票の条件を作ります。
1. 社会的選考の一貫性
「投票の結果、得られた社会的選考の順序は、どの選択肢も比較可能で推移的」
どの選択肢も比較可能なことを完備と言います。
推移的とは以下のようなことを指します。
選考が X→YでありY→Zでもあるときは X→Y→Z となる。
つまり3者の順序関係が繋がるということです。
2. 全員一致の原則
これは多数決として当たり前の原則です。
「全員がX→Yとした時は、社会的選考はX→Yとなる」
全員の選考が一致していたら、それは社会全体の選考と見なすというだけのことです。
3. 中立性
「選択肢の名前が変わっても、最終的な結果は変わらない」
これは以下のようなことを可能にします。
全員の選考がX→Yのとき、同時にZ→Wが成り立つならば
社会的選考は XとZ、YとW のようにグループ化して考えても良い。
4. 多様な選考
「投票者の選考には十分な多様性がある」
この条件は、コンドルセのパラドックスを防止します。投票者みんなが似たような選考を持ってしまうと、前に述べたような「堂々巡り」が発生してしまうからです。
5. 非独裁制
「独裁者が存在してはならない」
これは当たり前の仮定です。誰かの選考が、そのまま社会的選考になることはあってはなりません。
条件を満たす投票方式
以上5つが投票の最低条件です。これらの条件を満たす投票方式は存在するのでしょうか? 「アローの不可能性定理」は、この条件を満たす投票方式について次のように主張しています。
「如何なる投票方式も、条件1〜5を満たすことができない。なぜなら、条件1〜4を満たすように投票方式をデザインすると、独裁制になってしまうからである。」
具体例で考える
AとBは以下のような選考を持っているとします。
A:X→Y→Z→W
B:W→Y→Z→X
このもとで、条件に沿って社会的選考を決めます。
・選択肢XとYに注目
AとBで互いに異なる選考を持っています。ここではAの意見を採用し、X→Yとします。
・選択肢YとZに注目
AとBともにY→Zなので、条件2よりY→Zとします。
・選択肢ZとWに注目
AとBで互いに異なる選考を持っていて、決められないように見えます。しかし、XとY, ZとWのペアを見ると、お互いに対応していることがわかります。いま、X→Yという仮定をしたので、条件3よりZ→Wとなります。
・選択肢YとWに注目
上の結果から、Y→ZとZ→Wなので、条件1の推移性からY→Wとなります。
以上をまとめて、つなげるとX→Y→Z→Wとなりました。
これは、Aの選考と一致し、独裁制になってしまいます。
(最初にY→Xを仮定すると、Bが独裁者になります)
以上の議論はもっと一般的な場合でも成立します。
果たしてこの不可能性から逃れる方法はあるのか?
次回はその解決策と、それに付随して起こる新たな問題 について紹介します。